ここでは、家づくりに関する様々な基礎知識を、お役立ち情報として分かりやすくご紹介しています。ぜひ、家づくりの参考にしてください!
2 太陽熱利用
2.1 主な太陽熱集熱器
2.1.1 平板型集熱器(Flat plate solar collector)
世界的に広く使われている、最も一般的な太陽熱集熱器で、写真はチリウヒーターのCSC2C型です。通常は不凍液を循環熱媒液として使用します。
2.1.2 真空管太陽熱集熱器(Vacuum tube solar collector)
もともとは、太陽熱冷房のために高温度域の性能を保つために作られたものですが、世界の太陽熱集熱器の70%をも使う中国が殆どこれを主に自然循環式太陽熱温水器用に製造販売しているので、総数で言えば大量に使われています。
2.1.3 無圧自然循環温水器用平板型集熱器
日本固有の、屋根から落差だけでお湯を落とすタイプの自然循環式温水器に使われる集熱器です。集熱器が凍結しても破損しないように、通水部に柔軟性を持たせてありますが、逆に高い水圧は使えません。写真は、自然循環式用集熱器の通水部(集熱体Absorber)です。
2.2 太陽熱集熱器の効率
2.2.1 集熱効率線図
集熱効率 = 集熱器が取得する熱エネルギー÷集熱面に入射する太陽エネルギー 太陽熱集熱器の効率は、時々刻々変化する、太陽の日射量・気温・熱媒液温度に応じて時々刻々変化します。そこで太陽熱集熱器の効率は線図で表示されます。 図はチリウヒーターCSC-2C型平板型太陽熱集熱器の性能線図です。
η: 集熱効率 = 0.748-4.42(tc-ta)/I-16.1((tc-ta)/I)^2
tc: 集熱器温度 = (入口温度+出口温度)/2 (℃)
ta: 集熱器周辺気温 (℃)
I : 集熱面日射量 (W/m2)図表の見方 太陽熱温水器でお湯を沸かすとして、日射の強さが700 W/m2、集熱器温度が52℃、外気温が20℃のとき、 (tc-ta)/I = (52-20)/700 = 0.046 >>>> 集熱効率 η= 51.2%
2.2.2 選択吸収膜
[集熱面に入射する太陽エネルギー]- ([反射のロス]+[周辺環境へ放熱]+[集熱体からの輻射放熱] = [取得エネルギー]
このうち輻射放熱を抑えるため、集熱体受光面には、「太陽エネルギーは吸収するが、その結果自らが熱くなっても輻射放熱を殆どしない」という「選択吸収膜」が使われます。
図は、太陽から地上に到達するエネルギーを波長別のグラフにしたもので、右の目盛りは輻射率=吸収率、左の目盛りは反射率です。 緑色が可視光線域、赤線は100℃ (373 K)の黒体が放射する波長を示します。
集熱体表面は、入射エネルギーの各波長に対し固有の反射率と吸収率を持ち、
反射率 ρ + 吸収率 α= 1
吸収率 α = 輻射率 ε
黒線は、それぞれの波長での集熱体の反射率ρ (1 - 吸収率α) です。グラフは、太陽から来る波長3μmのエネルギーは殆ど吸収するが、より波長の長い集熱体からの放射は出来ないことが分かります。公式な計測結果は、
太陽エネルギー吸収率 AM1.5にて Solar Absorptance 95.3 %
100℃での熱放射率 Thermal Emittance 4.7 %2.2.3 ホワイトガラス(Low iron Glass)
太陽熱集熱器のガラスには、鉄分含有量が少ないホワイトガラス(Low Iron Glass)を使います。 通常のガラスでは可視光線部分の透過率は高くても、波長0.7~2μm辺りの赤外線の透過率が若干低下してしまいます。ホワイトガラスは、可視光線域も赤外線域も共に高い透過率を維持し、太陽エネルギー透過度が90%以上にもなります。図は、波長ごとの透過率グラフです。
透過率
2.3 平板型集熱器と真空管集熱器
真空管集熱器は「高性能」と思う人が多いようですが、実は、それぞれの適性があるというのが正しい理解です。
2.3.1 性能の相違
性能の相違は、集熱効率線図上に表せます。性能比較図は太陽エネルギー学会の「太陽エネルギー利用ハンドブック」に掲載のものです。 平板型集熱器は、低温域の効率は優れていますが、高温域になるほど効率が低下します。 真空管集熱器は低温域の効率は劣りますが、高温域での効率の低下が少ないです。
2.3.2 平板型と真空管 用途別の比較
(実機計測によるグラフで、)平板型集熱器と真空管集熱器とを太陽熱給湯と太陽熱冷房について比較します。
例として、気温20℃、集熱器入口42℃出口48℃、日射量600W/m2 とすると、⊿t/I = 0.042 です。この条件だと、集熱効率は、平板型 0.536、 真空管 0.369、 高級真空管 0.493。 通常、水から加温し始めるので、殆どの運転はこれよりさらに低温域で運転します。平板型が優れています。
太陽熱冷房などの場合気温33℃、集熱器入口87℃出口92℃、日射量700W/m2 とすると、⊿t/I = 0.081 です。この条件だと、集熱効率は、平板型 0.286、 真空管 0.312、 高級真空管 0.450。真空管が威力を発揮します。 吸収式冷凍機・デシカント除湿など本当はもっと高温が欲しいのですが、この辺りで辛抱することになります。
2.4 対比表
平板型集熱器 | 真空管集熱器 | |
---|---|---|
集熱性能 | 50-60℃以下の低温域で効率が高い。 | 高温域で効率の低下が少ない。 |
空焚き温度 | 190℃近辺 | 240℃近辺 |
長所 | 集熱器ほぼ全面が受熱面 | 高温域での熱効率が高い |
欠点 | 高温域ほど効率が低下する。 | 集熱器の60%程度が受熱面 |
用途 | 住宅用、施設用等給湯、低温温水暖房、プール加温、プロセス温水など。 | 吸収式冷凍機による冷房、デシカントなど |
凍結 | 水熱媒だと破損する。通常は不凍液の熱媒液を使用。 | 真空管内部では凍結の心配はないが循環回路では凍結の可能性あり。 |
沸騰 | 夏季小負荷のときは、水抜きによる沸騰防止か、加圧回路にして沸騰防止する。 | 高温集熱効率が高いため、沸騰し易い。ヒートパイプ型真空管か完全抜水。 |
安全性 | 強化ガラス使用のため破損の危険性が少なく、割れても安全。耐風強度と、耐風設置強度を確保。 | ガラス管が強化不能。割れると危険。防護が必要の場合も。管の隙間を風が抜けるので、面圧が小さい。ただし、反射板付きの場合は平板型同様の強度確保が必要。 |